オンプレからクラウド移行に成功した「ドリーム・アーツ」がIPO -沿革や主要KPI、成長戦略を解説- | One Capital, Inc 読み込まれました

オンプレからクラウド移行に成功した「ドリーム・アーツ」がIPO -沿革や主要KPI、成長戦略を解説-

STARTUP

23.10.30

10月27日、ノーコード開発ツール「SmartDB」などを手掛けるドリーム・アーツがグロース市場へ新規上場した。初値は公開価格を13%上回り、時価総額122億円でデビューを果たした。

同社の創業は1996年と若いスタートアップではない。創業当初はSMB向けにグループウェアをオンプレとして提供していたが、クラウドへの移行を成功させ、ストック売上高比率が年々増加している。

また、同社は先に述べたホリゾンタルSaaSに加え、多店舗ビジネス向けにバーティカルSaaSも提供しているユニークな存在だ。

今回は同社の創業からIPOに至るまでの沿革や事業内容、主要な業績指標について解説する。

過去に上場承認も中止、オンプレからクラウド移行を成功

1996-2008:ソフトウェアベンダーとして創業、上場承認下りるも中止

ドリーム・アーツは1996年、山本 孝昭氏によって創業された企業だ。同氏は広島県で生まれ、大学卒業後はソフトウェアを販売するアシストへ入社。その後、インテルジャパン(現インテル)でマルチメディア関連技術のマーケティング業務などに携わったという。

創業当初はSMB向けにグループウェア「INSUITE 99」をオンプレとして販売していた。2002年には大企業向け情報ポータル「INSUITE Enterprise」をローンチし、2005年には現在の中核事業である「SmartDB」の販売を開始した。

実は2000年、同社は当時の大阪証券取引所やナスダック・ジャパンから上場承認が下りていた。しかし、ターゲットがSMBやMid-Market中心となっていたため、継続的な成長が難しいと判断し、上場を中止したという。ドットコムバブルの崩壊と同時期だったため、市況の影響を考慮した側面もあるかもしれない。

2008-2017:バーティカルSaaSのローンチとクラウド製品の拡充

2008年にネクスウェイと共同事業で開始した店舗向けサービス「店舗matic」をリリース。2010年には自社ブランド「Shopらん」を展開し、ダブルブランドで販売することとなった。

2014年、同社はSmartDBのAPIを公開し、さまざまなアプリケーションの開発基盤として利用できるようになった。また、2017年には「INSUITE」および「SmartDB」をクラウド基盤上で提供することにした。このあたりからクラウドビジネスを本格化するようになっていた模様だ。

2018-2023:社運を賭け、クラウドサービスへの移行を推進

2018年には世界的なクラウドシフトの波を受け、同社はビジネスモデルを変革することを決意。SaaS企業へ変貌を遂げる決断を下した。

クラウドビジネスへの転換に伴い、プロダクト開発および営業体制の構築へ先行投資を実施。具体的には、インサイドセールスやカスタマーサクセスチームの立ち上げ、顧客行動解析の体制構築、Webマーケティングやイベントマーケティングの強化などを実施したという。

また、販売方針やプライシングも変更した。新規顧客へのオンプレ販売や大型カスタマイズを禁止したことに加え、従量課金などのプライシングモデルも導入した。

Adobeの事例が代表的だが、サブスクリプションモデルへ移行するにあたり、一時的にコストが嵩み収益が減少することが一般的である。

同社も2018年以降、コストが嵩んだことで2020年には赤字へ転落。売上高も横ばい状態が続いた。しかし、その影響を最小化し、クラウド事業へ移行させることに成功した。その結果、2022年のストック売上高比率は78.9%、クラウド事業の比率は63.2%まで上昇した。

ホリゾンタルとバーティカルを手がけるユニークなSaaS企業

ドリーム・アーツは主要サービスとして3つのプロダクトを展開している。ノーコード開発ツール「SmartDB」、社内ポータル構築ツール「InsuiteX」、そして、チェーンストア向け情報共有ツール「Shopらん」だ。

昨今、マルチプロダクトを展開しているSaaS企業は少なくないものの、ホリゾンタルとバーティカルの双方を手がけている企業は珍しいだろう。

SmartDB:ノーコードで業務アプリケーションを開発

SmartDBは大企業に特化したノーコード開発ツールであり、同社の中核事業となっている。フォーム、ワークフロー、Webデータベース、コミュニケーション、セキュリティ、システム統合・連携といった大企業の業務デジタル化に必要な6つの機能があり、これらをドラッグ&ドロップで誰でも簡単に開発できる。

ターゲットはIT人材が不足している大企業だ。外資系ベンダーも存在する領域で彼らは複雑な要件にも対応できるが、SmartDBは学習コストの低さや操作性で差別化を図っているという。その他にもプロフェッショナルサービスを充実させるなど、手厚いサポート体制が競争優位性だという。

InsuiteX:社内ポータルの構築プラットフォーム

InsuiteXは大企業向けの社内ポータル構築ツールとなっている。経営ビジョンの浸透、組織エンゲージメントの強化、企業カルチャーの刷新など、経営課題を解決する社内ポータルを構築することができる。

Shopらん:多店舗ビジネス向けバーティカルSaaS

そして、多店舗ビジネス向けに展開するバーティカルSaaSが、Shopらんだ。本部と店舗間の情報共有、業務指示の徹底、現場情報の収集など、チェーンストア特有の課題を解決するという。

これら3つのサービスは、三菱UFJ銀行、リクルート、大和ハウスなど、名だたる大企業に導入されている。

成長率や粗利率は高くないものの、NRRは高水準

前期売上高は前年比24.9%増の36.7億円となっており、SaaS上場企業の中では規模は小さい部類に入る。なお、今期(Q2)の実績は22億円となっている。

また、売上総利益率は50.1%とSaaS企業としては高くない(上場企業の中央値:70.1%)。エンタープライズがターゲットということもあり、プロフェッショナルサービスの割合が高く、マージンを低下させている可能性が考えられる。

ストック比率は78.9%となっており、上場企業の中央値(90.5%)よりも低い水準となっている。しかし、クラウド事業の比率増加に伴い、今後上昇する可能性は十分にある。

Land&Expandにより、ホリゾンタルSaaSは高成長が続く

ホリゾンタルSaaSの売上成長率(Q2)は、48.7%と中央値(27.6%)よりも高い水準にある。ARPUはやや横ばいだが、顧客数が大幅に増加していることがわかる。

また、ホリゾンタルSaaSのNRRは125.1%と国内企業ではトップクラスの水準を誇る。部門利用からスモールスタートし、全社展開するLand & Expand戦略など、アップセルが奏功していることがわかる。

パンデミックの影響を受けるもバーティカルSaaSは再び成長軌道へ

バーティカルSaaSは顧客が多店舗ビジネスということもあり、パンデミックの影響を大きく受けた。2021年にはマイナス成長に陥ったものの底打ちを見せ、2022年からは回復基調に入っている。2022.Q2からは成長率が加速していることがわかる。

20年以上”ほぼ”ブートストラップで成長

ドリーム・アーツのエクイティストーリーだが、INITIALによると、最後の資金調達は2008年(ベンチャー・リヴァイタライズ証券投資法人への第三者割当増資)となっている。創業以来、事業会社やVCなどから累計17.7億円(デット除く)を調達しているものの、IPO時点で外部資本の比率は低い。

株主の状況より一部抜粋

資産管理会社と合わせると、山本CEOの持分比率は40%、前川取締役は16%を保有している。NTTファイナンスや加賀電子などの事業会社も株主として名を連ねるが、役員・従業員の持分比率が高いことがわかる。

上場を中止した2000年まで遡ると、そこからはほとんどVCや事業会社から資金調達は実施していない。20年以上ほぼブートストラップで成長してきた企業だと言える。

今回、上場する目的は3つ。企業の信頼度を高めて採用力を強化すること、株式での資金調達をしやすくすること、コンプライアンスの強化を図ることだという。なお、上場における調達資金は販促費や製品開発へ充てるという。

パートナーシップ推進でマジョリティ市場へ、顧客層も拡大

今期の業績予想は、売上高が15.8%増の42.5億円、営業利益は122.9%増の9.8億円と大幅な増益を見込んでいる。なお、下半期は季節性などの要因により、オンプレミスおよびプロフェッショナルサービス事業が上半期に比べて減少する予定だという。

今後は、SmartDBを中核事業としながら顧客基盤の拡大を図り、アップセル・クロセスセルによるオーガニックな成長を図るという。その上で、他社サービスとのAPI連携、プライシングの変更も重要な戦略と位置付けている。

また、戦略パートナーを拡大するという。直販による成長はキャズムを超えたため、ソリューションプロバイダーやクラウドインテグレーターなどのパートナーと連携することで、マジョリティ市場への浸透を図る。

加えて、ターゲット層の拡大も図る。これまで顧客層の中心だったエンタープライズに関しては、海外拠点、取引先、グループ会社へ拡大。そこからMid-Marketへの展開も視野に入れている。

ローコード・ノーコード市場は受託開発の”1%”にしか過ぎない

「Web3」や「生成AI」がバズワードとなり、「ローコード・ノーコード」という言葉を目にする機会はすっかり減少した。しかし、上図のように受託開発市場に対して国内SaaS市場はその12%に過ぎず、ローコード・ノーコード市場に関しては、1%と非常に高いポテンシャルを秘めている。

現在の時価総額は124.4億円(10月27日終値)となっており、今期売上高(42.5億円)の2.9xで取引されている。これは同じくノーコードでアプリ開発できる「kintone」を手がけるサイボウズ(3.2x)とほぼ変わらない水準だ。

今期の売上高は15.8%増と決して高い成長率ではないが、マジョリティ市場への浸透、ターゲット層の拡大戦略が功を奏すれば、成長率が再加速する可能性も大いにある。ホリゾンタルとバーティカルを持つユニークなSaaS企業として、今後も注目していきたい。

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Text by Kakeru Miyoshi(@saas_penguin

参考文献・引用:事業計画及び成長可能性に関する説明資料新規上場申請のための有価証券報告書東京証券取引所グロース市場への上場に伴う当社決算情報等のお知らせドリーム・アーツ山本社長「ノーコードで大企業をDX」Wikipedia「山本孝昭」projection-ai:dbINITIAL

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